市民大学トラム 第3回「長寿企業の条件」の開催

市民大学トラム 第3回「長寿企業の条件」

 2021年6月19日(土)、本学と豊橋市教育委員会の連携講座「市民大学トラム『変革するビジネス社会を生き抜くために ~マーケティング・企業経営からAIまで~』」のシリーズ第3回が開催されました。
 第3回は本学会場と別会場の大清水まなび交流館「ミナクル」で開催となりました。本学会場は観客を入れ、別会場の大清水まなび交流館「ミナクル」はオンライン配信でのハイブリッドで実施しました。

 第3回は、本学 経営学部 経営学科の佐藤 勝尚 教授より、「長寿企業の条件」と題して、データ分析に基づいた国内外の長寿企業、ファミリー企業の失敗、持続的成長について説明していただきました。

<講演概要>

 長寿企業の特性は、2020年の日経BPコンサルティング (nikkeibp.co.jp)の調査データによると、日本企業は長生きであり、長寿なのが数字の上で明らかです。その特徴をまとめると以下の通りです。

①創業100年以上の企業は3万3076社で世界第1位である。世界の100年企業全体に占める割合は41.3%で、2位の米国の24.4%に17ポイントの差をつけた。
②創業200年になるとその傾向はさらに高まり、企業数は1340社で日本がトップ。世界の創業200年を超える企業全体に占める割合は65%。2位の米国の11.6%に53ポイントもの差となった。
③100年企業出現率の最も高い業種は小売業で5.3%だが、創業200年以上になると宿泊・飲食業が0.68%でトップとなり、小売業は3位に後退している。
④売上規模別に見ると、100年企業は1億円未満の層が最も多く41.7%だが、100年企業出現率で見ると1.8%。最も出現率が高いのは、500億円以上の16.8%となっている。

 企業の形を保ちながら業務を続けられるのは、ほんの一握りである。選ばれし企業である。多くは災害や戦禍、あるいは経済の波にのみ込まれ、退場を余儀なくされてきた。経営者であれば、あるいはその企業に勤務する従業員であれば、その企業がずっと続いてほしいと願うものであろう。長く続く、強い企業の明確な条件は一概には語れないが、少なくとも日本の企業は、世界の中でそれを最も体現していると調査結果は示している。このような背景にあるのは、例えば、「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)という近江商人の商売の理念からも見て取れる。 

 また、長寿企業としての多くのファミリー企業では、その持続的成長の条件として以下の特徴があげられる。すなわち、①経営理念の策定・共有・活用が重要である ②競争優位性の確立・強化を図ること(このために、イノベーションの重要性を認識すること、伝承と革新のバランスを考えること)③ガバナンスの仕組みを作り、運用すること(ファミリー企業の統治は、企業統治(コーポレート・ガバナンス)と家族統治(ファミリーガバナンス)の2重構造である。またコーポレート・ガバナンスは、PDCAが基本となる。企業グループのガバナンスは、所有、財務管理、幹部の配置に配慮しなければならない。ここでは非同族社員のモチベーションを高めることが特に重要である。さらに、リスクマネジメントの確立すること。ここでは、財務的安定性の確保(自己資本比率の高さを確保すること並びに特定顧客からの独立性の高さ、ー特定顧客からの売上比率を5%以内にすること)が重要である。④長期的関係性の確立を心がけること、そのためには、従業員、顧客、取引先などステークホルダーとの関係性を作り上げることが重要である。⑤周到な承継計画を考えておくことも重要である。これは、事業・経営・所有、という 3つの側面でみなければならない。事業面では、上述の①~⑤を重点として実行することであり、経営面では、後継者育成が特に重要である。また、経営者の交代時期については、65歳をめどに、50~55歳で後継者を決め、10年かけて育成することがベターである。失敗したときに支えられうちがよい。また、経営の後継対象者は、創業家関係か、それ以外か、本人の意思・能力に加えて日ごろの彼らとのコミュニケーションが不可欠である。所有面では、資産承継の対象者の範囲を中心に「株式政策の方針と承継時期」を明確にしておくこと。すなわち。株式の集中と分散をバランスを考えてきめることが重要である。ただ、分散すると、それをまとめるにはかなりの時間と費用はかかることになるので注意しなくてはならない。さらに、長寿企業は、次のことを心がけることがさらなる長生きを全うすることになる。

 ① 進歩は必然であり、あらゆるものを常時見直しの対象にしなければならない。それは陳腐化するゆえ(故)である。自らを陳腐化させるイノベーションの必要性も当然のことにすぎない。② 過去を肯定し、今を革新して、未来を豊かにするためにイノベーションを起こさなければならない。イノベーションの目的は、機会を生かして成果を上げることである。③ 明日を創造しようとする理想を掲げ、手持ちの手慣れた道具で個々の問題を解決していかなければならない。④ 理想は、ベストを求める、現実にはベターを求める。それは未来志向であり、問題解決志向である。少しでも良いから明日を創造していかなければならない。




<会場から出た質問と回答の一部>

 会場からは多数の質問をいただきました。以下に会場から出た質問と回答の一部をご紹介します。

Q.社名やロゴを変える会社は伸びるのか?
A.
 伸びる企業もあれば伸びない企業もあります。伸びている企業、例えば、アマゾン(Amazon)、スターバックス(Starbucks)、アウディ(Audi)、ノキア(Nokia)のように全く違う企業が誕生したのかと思うほど、大幅にロゴを変えたブランドもあります。一般に大手ブランドは、そのロゴを大幅に変えることはあまりしていません。例えば、コカ・コーラのデザインは1880年代からほとんど変わっていません。このことが効果を生んで、コカ・コーラは世界で最も認知度の高いブランドだと考えられています.

 また、社名変更は、日本製粉が多角的総合食品企業としてニップンに社名を変更、ソニーが経営機構改革に伴いソニーグループとなり、富士ゼロックスが米ゼロックスとの合弁解消を機に富士フイルムビジネスイノベーションに、沢井製薬が持ち株会社へと移行しサワイグループホールディングスに社名変更しています。また、ジャパンネット銀行がブランド推進の一環としてPayPay銀行になるなど、多くの社名変更があります。これらは、その企業の経営戦略の一環としていると考えられます。すなわち、事業領域の拡大・変更により業種・事業名を外す、分社化や経営統合、合併など認知度の高いブランド名を社名にするなど、さらに、ロゴや社名は企業の中身を表すものであるため。名前を変えることで取り組む分野が広がったり、社員のやる気が高まったり、業績が伸びることを狙いとしていると思います。

Q.持ち株会社と事業会社の社名が違う会社はなぜそのようなことを行なっているのか?
A.
 例えば、パナソニックは2020年11月13日、2022年4月に持ち株会社制へ移行すると発表しています。会社分割を実施し、持ち株会社「パナソニックホールディングス」の傘下に複数の事業会社を設立し、。各事業における責任と権限を明確化し、競争力の強化につなげる。としています。

 それでは、まず最初に、株式を保有(ホールド)している会社とは何か、をお話ししたいと思います。株式を保有(ホールド)している会社は「持株会社」または「ホールディングカンパニー」と呼ばれます。この、持株会社は、「純粋持株会社」と「事業持株会社」の大きく2つに分類されます。
 ①純粋持株会社:自社では事業を行わずに、子会社の事業を管理する
 ②事業持株会社:自社でも事業を行いながら、子会社を管理する

①純粋持株会社
 例えば、日本全国にコンビニエンスストアを展開している企業は、さまざまな事業の子会社を抱えています。コンビニ、スーパー、レストラン、銀行など、会社が大きくなればビジネスの分野は多岐に渡ります。業種は違ってもすべて同じグループ会社で、親会社(持株会社)が各子会社を管理する構造です。

小売業と金融業など、業種や業態が違うビジネスを1つの会社でマネジメントするのはかなり難しいと思われます。そこで、持株会社を作り、各事業を別会社としてホールディングス化することでマネジメントの負担を分散させることができます。

②事業持ち株会社
 中小企業においては、事業継承のためのホールディングス化が考えられます。経営者の高齢化が進み、後継者に事業を継承するケースが増えているからです。事業ごとに分社化し、ビジネススケールを小さくすることで、後継者の負担軽減を図ります。採算のとれない会社は売却・譲渡するなど、事業継承の時にビジネスの整理も可能となります。持株会社は「〇〇ホールディングス」「〇〇グループ」のような社名が多いですが、ホールディングス化したからといって必ず社名を変更するわけではありません。ホールディングス化は、会社の合併とは異なります。傘下企業が消滅することなく、持株会社のグループに入れます。会社自体は別々のままです。このような形でホールディングス化するメリットは、ホールディングス化している方が、M&Aをしやすいということがあげられます。買収によって「他会社の支配下になる」よりも「同じグループ会社になる」方が、経営陣の抵抗感を抑えることができるからです。また、基本的に持株会社と傘下企業は別会社ですので、買収後もマネジメントしやすく、売却も会社単位で円滑に進めることができます。ホールディングスという大組織でも、会社として小分けされているので、ビジネスの責任が明確です。会社単位で営業成績を把握でき、責任がわかりやすいという特長があります。組織が分かれているので意思決定のプロセスが短く、経営判断のスピードが速いこともメリットとなります。

 さらに、グループ会社があれば、将来の経営者となる人材を育てることができます。1つの会社内で人材育成をする場合、特定事業の責任者として人材を配置することになります。しかし、経営者を育成するためは、会社のトップとしての責任を担った経験を積ませる必要があります。そこで、グループ会社の社長として有望な人材を登用することで、次世代の経営者を育成することが可能となります。中小企業の社長が、代替わりのために跡取りを子会社の社長にするケースはよくあります。

 一般に、組織が大きくなるとマネジメントが難しくなり、ビジネスの責任は複雑で不明確になります。このような課題を解決できるのがホールディングス化です。企業としてのフットワークを軽くする手段の一つとして、ホールディングス化があるといえると思います。

本学会場での質疑

本学会場での質疑

講師より一言

 「企業の成長は、経営者の志が重要であることを再度認識していただければ幸いです。講演の最後のスライドで述べたように、天は自ら助くる者を助く(てんはみずからたすくるものをたすく)を再認識していただければと思います。」


 次回は、7月10日(土)「人工知能(AI)の最前線 ~データがもたらすデジタル革命~」(経営学科 早瀬 光浩 准教授)です。次回も大学,大清水まなび交流館「ミナクル」の両会場での実施予定です。大清水まなび交流館「ミナクル」は遠隔会場となります。実施会場については,以下のリンクよりご確認ください。

会場の確認,および申し込み:http://www.sozo.ac.jp/exchange/tram_current_year

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