市民大学トラム 第4回「人工知能(AI)の最前線 ~データがもたらすデジタル革命~」の開催

市民大学トラム 第4回「人工知能(AI)の最前線 ~データがもたらすデジタル革命~」

 2021年7月10日(土)、本学と豊橋市教育委員会の連携講座「市民大学トラム『変革するビジネス社会を生き抜くために ~マーケティング・企業経営からAIまで~』」のシリーズ最終回の第4回が開催されました。
 第4回は本学会場と別会場の大清水まなび交流館「ミナクル」で開催となりました。本学会場は観客を入れ、別会場の大清水まなび交流館「ミナクル」はオンライン配信でのハイブリッドで実施しました。

 第4回は、本学 経営学部 経営学科の早瀬 光浩 准教授より、「人工知能(AI)の最前線 ~データがもたらすデジタル革命~」と題して、AIの技術,AIの課題,これから起こりうる変革について説明していただきました。

<講演概要>

 初めて人工知能(AI)という言葉が使われたのは1956年のダートマス会議です。それから65年が経過しました。コンピュータは目覚ましく発展し,処理速度はとても早くなりました。AIの研究は,コンピュータの進歩に合わせ,探索と推論の分野の研究,ルールベースやエキスパートシステム等が発展しました。しかしフレーム問題やシンボルグラウンディング問題等によりAIの研究が盛んでない冬の時代も経験してきました。この間,個人用PCやインターネットが社会に普及し,データで溢れる世の中になりました。冬の時代もAIの研究は続けられ,特に,機械学習・ニューラルネットワークの研究で学習方法の発見や過学習を防ぐ方法の発見があり,これらが今日の深層学習へと続きます。

 現在のAI技術は,認識,予測,生成,会話等の分野で成果をあげています。これらは深層学習の発展によるところが大きいですが,古くからの技術も培われています。画像認識の分野では,画像認識のエラー率が人間よりも低く,すでに人間を超える精度で認識が可能です。しかし,AI技術は,まだまだ発展途上であり,幾つもの課題があります。① AIの判断根拠を説明できない(いわゆるブラックボックス問題),② 意味を理解できない,③ 頑健性が低い,④ 無から新しいデータを生成できない,⑤ 質の良い大量のデータが必要などです。これらを理解した上で,活用することが求められます。これらの課題を解決するために,世界中の研究者が取り組んでいるところです。

 AI技術は,まだ人間が思うほど完璧でないところもありあり,社会への影響も出ています。顔認証システムの誤認識による誤認逮捕,フェイク画像・動画・ニュースによる混乱,学習データの偏りによる差別などあります。これらは技術の利用方法に問題があったり,AIに信頼・依存しすぎてしまったりした結果ともいえます。現在の技術の仕組みを正しく理解,課題を踏まえた上で利用していく必要があります。

 これからますますAIが発展していくと,働き方の変革が求められるようになります。紙が主体の業務,社内で閉じたシステム,対面のみによる意思決定(報告・連絡・相談)等,アナログ主体の業務プロセスでは厳しくなる時代の幕があがっています。近年のオンライン化・デジタル化への対応力が企業の競争力になりうる可能性があります。デジタルファースト(「デジタル化は無理だ」ではなく「いかにデジタル化するか」で)考えていきましょう。デジタル化とは,アナログをデジタルに変えるデジタイゼーションとプロセスをデジタルに変えるデジタライゼーションの2つからなります。このデジタライゼーションにAIが活用可能です。最近は,生産管理にAIを利用したり,就職の面接でAIによる判定を導入したりAIに関するニュースが飛び交うようになりました。

 AIは,データをもとに学習し,認識,予測,生成,会話が可能になっています。AI技術の課題や問題点を正しく理解し活用していきましょう。





<会場から出た質問と回答の一部>

 会場からは多数の質問をいただきました。以下に会場から出た質問と回答の一部をご紹介します。

Q.今後AIは,一昔前のファジィ回路(ファジィ制御)のような製品が出ますか?
A.現在のAIは,学習するときには高速・大容量メモリのコンピュータが必要です。しかし,一度学習を終えたモデルは,学習に利用したコンピュータと同性能でなくても実行可能なものがあります。この学習を終えたモデルを製品の回路に組み込むことで,ご質問のような製品化が可能です。

 また,エッジAIと呼ばれる端末機器(スマートフォン,IoT製品など)で直接動作する技術やクラウドAIとよばれるデータをサーバへ送信し,サーバで処理をし,結果のみを受け取る技術もあります。

Q.量子コンピュータが実現すると,AIはどのようになりますか? また量子コンピュータの実現はいつ頃でしょうか?
A.量子コンピュータに関しては,専門外ですので簡単な説明と私見となることをご承知おきください。

 まず,量子コンピュータとは,量子力学を計算過程に用いた次世代のコンピュータです。理論上は,現在のコンピュータを遥かに超える処理能力を持つとされています。未だ理論上の性能を完全に満たしている技術は確立されていませんが,世界中の企業・研究機関が開発を進めています。

 現在のコンピュータは,1 / 0 の 2つのみの状態で処理をしています。このような2進数を用いた表現方法をbitと呼びます。この1 / 0は電源のOn / Off に対応させることでコンピュータは計算をします。このスイッチの一つ一つを論理ゲートと呼び,これを組み合わせることで複雑な計算が可能となっています。

 一方,量子コンピュータは,量子力学の重ね合わせの性質を生かし,0と1の両方の状態を同時に表現するqubitという形で計算をします。このような計算に特化した電子回路が量子ゲートです。

 現在のコンピュータと量子コンピュータの計算回数は差があります.例えば8bitの情報を処理する場合,現在のコンピュータでは,256回(=28回)計算します。一方の量子コンピュータは256通り全ての状態を同時に扱うので,1回の計算です。

 量子コンピュータが実現すると,このように超高速化が図られます。つまり,AIの学習時間削減や大規模データでもリアルタイム処理が可能となります。また,量子コンピュータに特化した新しい理論やアルゴリズムが発見されると考えられます。

 日本政府は,2030年度までに100量子ビットの量子コンピュータを実用化し,2040年度までに500-1000量子ビットの量子コンピュータを開発し,新材料や創薬に役立てるという構想です。これが実現できると仮定し,現在のコンピュータの発展と照らし合わせると,あと80年程度はかかるのではないでしょうか。

講師より一言

 「AIの仕組みを知ることで,何ができるのか・できないのかが見えてきたと思います。AIを利用する際は,AIの課題や問題点を理解しそれらに十分注意してください。特に,過信したり依存しすぎたりしないことが重要です。」


 第1回から第4回まで,多数のご参加誠にありがとうございました.今後,本学で市民開放の講座等が開かれた場合には,ぜひご参加ください.

おすすめ