Vol.8 日本女性のキャリア形成の課題

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 キャリアはライフコースという時間軸のタテ系と就業領域という空間軸のヨコ系を色とりどりに選び織りあげていく、つづれ織り(フランス語でタピスリー: tapisserie)に例えられる。描かれる文様は外的な成果ばかりではなく、内的な成熟を表わすものである。激しい変化する時代と社会の中で、女性がより美しいタピスリーを織り上げるためには、どのような課題を乗り越えていけばよいだろうか。

1.自律的キャリア形成のための行動指針

 企業をはじめ経済社会が自律的人材を求める現在、人は自らの選択と意思決定に責任を持ち、主体的、自律的にキャリアを築いていかなければならない。まして女性については、キャリア形成における選択肢が多様であり、であるからこそキャリアというタピスリーが美しく織り上げられる一方で、混乱というリスクも伴う。就職するものと、世間で言われれば就職する、結婚するものである、と言われれば結婚する、子どもができたら退職するものだと、言われれば退職……という「なんとなくの選択、意思決定」ではなく「意思を持った選択、意思決定」を心掛け、主体的自律的なキャリア形成をめざすべきだろう。さらに、先が見通しにくい時代では、偶然の出来事をチャンスに転じるような前向きで柔軟な姿勢も求められる(J.D.クランボルツ1999)。女性が主体的自律的、柔軟にキャリア形成を遂げていくための行動指針として次があげられる。

  • 長期のキャリアビジョンを描くものの、随時修正して、計画的かつ柔軟に生きる
  • キャリアビジョンを達成するための実行計画を立て、訓練、学習を怠らない
  • キャリア形成のモデルやメンター、サポーターを探し、支援ネットワークを築く
  • 男性様式のソーシャルスキルを習得し、女性様式のそれと戦略的に使い分ける
  • 自他に内在するジェンダー・ステレオタイプを受容し、適切にコントロールする
  • 挑戦したり決断したり責任を負ったりすることを畏れない
  • 女性活用の限界を認識しながらも、あきらめない
  • 感覚を鋭敏にしてチャンスをとらえ、機会や転機をチャンスとして活かす
  • 女性ならではの強みを活かし、ニッチ型キャリア形成モデルを視野に入れる

2.普遍的なキャリア形成

 日本型雇用システムが崩壊し、労働市場が流動化する中でリニアなキャリアを歩めない、歩まない男性も現れている。「男は家族を養うものという性役割分担を負担に感じる」という男性の声も多い。非婚を選ぶ男性を増えている。また、男女の役割分担による生計の維持にほころびも見え始めた。男性も「キャリア形成のプロセスに、家庭建設をいかに織り込むか」という課題を視野に入れるべき時代になっているのである。

 「性役割概念」と「職業人としての役割概念」の統合は、「自己概念」の発達につながっており、キャリア形成と家庭建設の両立は人生の本質的な課題といえるだろう。D.T.ホールは「プロティアン・キャリア」の形成を勧める。これは組織によるのではなく個人によって形成され、変化する環境に「自己志向的に変幻自在に対応していく」キャリアのことである(渡辺、2003、p115)。プロティアン・キャリアをめざすには今まで以上に、自分の価値観・興味・能力・計画に気付き、過去と現在と将来の自己概念が統合されていることが必要という。男性も女性も「職業人」であるとともに「配偶者」「親」「家庭人」「市民」といった様々な役割概念を持ち統合することで、これまでの男女の性役割観を超えた相互補完的、相互互換的なキャリア形成を遂げ、互いに豊かな働き方、生き方を実現していけるのである。

 現在、様々な分野で「ホリスティック(包括性)」なアプローチが唱えられている。キャリアの分野では、サニー.L.ハンセンが「総合的人生計画」(1997)として「生命(体、心、精神)、生活上の役割(愛、学習、労働、余暇、市民生活)、文化(個人およびコミュニティ)、性(男女双方にとっての個の充足および結合性)、コミュニティ(地球全体と地域)、考え方(合理的と直感的)、知り方(量的と質的)、個人的な事とキャリアとの連携」などを提唱している(渡辺、2003、p132)。この概念は包括的な視点から、人は自らの決定が人類や環境に影響をもたらすことを鑑み、キャリア選択をすべきと訴える。

 男性と女性の相対比較の視点を離れて統合の視点を持ち、男女にとって普遍的なキャリア形成モデルを築くべき時機が訪れている。その手始めとして、これまでの女性が男性のキャリア形成をモデルにしつつ、独自のキャリア形成のパターンを模索してきたように、これからの男性にも女性の働き方をモデルにしつつ、新しいキャリア形成のパターンを模索しなければならない。ここでは、試行錯誤を続ける個々の女性は主体的自律的に、統合的なキャリアを織り上げていく必要がある。男女それぞれの立場からそれぞれの立場を超えて、個人にとっても組織にとっても社会にとっても有意義な働き方を探っていきたいものである。