Vol.7 企業が利益を得るためには

vol7photo

利益を出すための事業を定義する

 利益は「利益=収益-費用」で表すことができます。この利益をもたらすものは事業(ビジネス)です。利益は事業を続けていくための必要条件です。では、その企業の事業は何か、何になるか、何であるべきかを明らかにして、企業全体で理解しておかねばなりません。このように事業を定義するといいます。(あるいは事業ドメイン(生存領域)の定義といいます)

 企業の事業活動の領域をきめると、経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)を有効に活用でき、競争相手とは違う強みをもつことができます。さらに、自分たちの基本的な存在意義を理解することで、企業全体として、どの方向に努力していけばよいかがわかります。

 事業の定義は次の資生堂の例のように3つの要素を決めなければなりません。

  1. 企業の顧客は誰なのか(誰に)……
    どんな要求・要望を持ったお客様を相手にするべきなのか。
  2. その顧客に対して何を価値提供するのか(何を)……
    企業が、どのような「お客さまにとって価値のあること」を提供するのか。
  3. どのような強みで勝負するのか。(いかに)……
    企業が得意とすること、独自の能力のことです。他の企業より得意なことがあるから、社会に役立つことになります。

 事業定義の例を資生堂でみてみよう。資生堂は、その事業を「ヒトを彩る(いろどる)サイエンス」として、事業コンセプトを定義しています。この定義により、企業としてやるべきことが鮮明になります。

ヒトを

誰に:対象顧客

個々人はもちろん、社会・生活・文化を含む人間全体に限りなく 関心を寄せるということであり、人と人のつながりや心、人間性、 さらには人の生活や社会までをも含めた、広い意味での「人間」 に対する貢献の意味が含まれている。
彩る

何を:提供価値

より美しく、より豊かな深みのある価値の創造を通じて、人間に 輝きを与えていくことを意味している。
サイエンス

いかに:独自能力

美の科学であり、健康・情報・ヒトの科学である。つまり、自然科 学・社会科学の幅広い科学の視点から、新しい深みのある価 値を発見し、豊かで美しい生活文化の創造に挑戦しようという、決意の表明である。

利益を出すための、事業の仕組み~何を強み(得意ワザ)とするのか

 利益を生み出すには、稼ぎ続けるための仕組みが必要です。この仕組みをビジネスシステム(あるいは、事業システムといいます)といいます。プリンタを製造・販売をしている企業はプリンタ本体だけでなくインクやトナーといった消耗品を収益の柱にしています。このような収益を上げる基本的な原理は4つあります。以下のような「○○の経済」と呼ばれる原理は収益を継続的に得るための基礎となる考え方です。

  1. 規模の経済………
    これは大量に製造したり販売することにより、それだけ1つあたりの平均費用が安くなることをいいます。たとえば、ユニクロのフリースなど、たくさん作るほど1枚あたりの単価が下がり、ライバル企業よりも安い費用でお店に並べることができます。
  2. 範囲の経済………
    組み合わせの経済ともいいますが、事業を多角化したり、いろいろな商品やサービスを作ったり販売することにより、得られる相乗効果により製品当り・顧客当り平均コストが減少することをいいます。範囲の経済ではいかに良い組み合わせをするかが重要です。たとえば、薬品メーカーのロートは、医薬品の技術を活かして化粧品を作っています。医薬という技術を、2つの事業に使うことができるという点が強みとなります。
  3. 速度の経済………
    スピードを上げることによって得られる経済的な利益をいいます。商品開発のスピード、仕事のスピード、輸送・配送のスピード、情報を得たり・伝達するスピード、商品の回転スピードなどスピードを速めることによって効率性や有効性を高められます。たとえば、注文したら翌日にオフィス用品が届く「アスクル」などが、その典型例です。
  4. 集中化の経済/外部化の経済………
    集中化の経済とは、1つの事業に特化することを集中化といいます。自社(自分の企業)の得意な事業に集中することによりメリットを得るものです。外部化の経済とは、集中化と裏腹の関係にあるものです。たとえば、本業以外の事業は外部の企業に任せ、自社は本業に集中することを指します。たとえば任天堂は、ゲーム機の制作に集中し、ゲームソフトはセガやスクエア・エニックス、コーエーなどから購入しています。

 収益を継続的に確保していくには、これらの原理を有効に活用していくことが重要です。それには、まず、企業としてどのようなビジネスをやるのか(“事業を定義する”あるいは“生存領域を決める”といいます)を決めて、そのビジネスによって顧客にどのような価値(たとえば商品やサービス)をどのような特徴を持たせた(差別優位性といいます)業務の仕組みで実現するのか(活動システムといいます:M.Eポーターの活動システム:1996)がなければなりません。さらに、その業務の仕組みは、その仕組みを成り立たせる企業として持つべき能力(たとえば、クレーム対応力など:これをコア・コンピタンスといいます)と能力を支える情報システム、業務のシステム、機械・設備や人材(個別資源といいます)が必要です。

 また、ビジネスシステムを構築するにあたっては、顧客への価値提供(商品やサービスなどを提供すること)をどのような、業務の順序(プロセスといいます)で行い、そのプロセスのどの部分に他社との競争に勝つような特徴(競争優位性といいます)を持たせるかの検討も重要です。このように企業は事業を行うに当たりこれらのことを考えているのです。