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担当教員プロフィール

■ 中野 聡(なかの さとし)。1960年、東京都府中市生まれ。幼少期は遠く丹沢と富士を望む浅間山(せんげんやま)に遊ぶ。小中学校では郷土地理研究や付き合いサッカーに興じ、高校生にして理学部進学を志す。高校には制服があったが、しばしば縞シャツを着ていた気がする。文系理系を問わず純粋系を好むが、父母の影響と当時の関心から人文・社会科学系へ大転換、歴史学(最初は歴史哲学)を学ぶ。後に少しだけ後悔。某授業で、「最近の学生はまじめに出席するが勉強しない」と諭され、講義を図書館での自主学習に振り向けたこともあった。それでも卒業できる、大らかで自由な時代に青春時代を過ごした。

■ 両親と先生方の支援を受け、イギリス社会史を学び、イギリス遊学(ウォーリック大学)。現地の暖かい労働者文化に感銘を受け、貧乏旅行で訪れたヨーロッパ大陸の文化を悲喜こもごも学ぶ。学生に話す例をひとつふたつ:労働者クラブでビリヤード(大き目のスヌーカー)を楽しむが、ちょっと浮浪者っぽい人とのプレーを断ったところ、近くにいた男性が一言、‘Why don't you play together? (一緒にやってやれ)」。逆に、時折差別的な対応を受けたものの、ぶつかりそうになったあるイギリス人女性に‘Chinese! (中国人!)’と言われたときは、別の男性がすくっと席を立ってその女性のところへ行き、‘Sam is our friend. (サム=サトシは仲間だ)’。競争に明け暮れるホワイトカラーの人々を、本当の人生を知らない人たちと考えるイギリスの労働者は少なくないとか。

■ 思えば、助け合いの欠如は、わが国の教育が抱える問題でもある。機会均等と公正の理念は、それ自体は維持されなければならないのだが、適切な管理を欠く自由放任システムでは偏差値競争にしか帰結しない。教室移動のない(選択の余地に乏しい)環境は、いじめの温床になる。自主学習と学び合い(学び愛)が、もっと奨励されて良い。ところで、イギリスの食生活には、人々ほどは、感銘を受けなかった。趣旨には共感を覚えるがベジにもならなかった。ブリュッセルを訪れる機会の多い昨今、週末にはビストロ・フレンチやイタリアンをこしらえ、家内と子供に迷惑がられている。ワインは、ボルドー寄りからサンジョベーゼタイプにシフトしたが、結局どちらも美味しい。イギリス料理は、家内がたまに作るシェパーズパイや‘フィッシュアンドサラダ’程度。でも、本場のエールは懐かしいね。

■ 就職時に豊橋に移転、テーマを欧州社会モデルと雇用・社会政策に変更した。戦後日本の経済社会政策は、アメリカの影響を強く受けてきたが、それは良きにつけ悪しきにつけ、競争主義的。経済発展モデルの探求としての欧州(特にイギリス)研究は時代の要請にそぐわなくなったが、われわれは持続的低成長下での諸個人のウェルフェア(幸せ)の維持発展という、新たな課題に直面している。この観点からは、良質で民主的な側面を持つ西欧と北欧諸国の戦後体制から学びうるものは少なくないと思う。市場主義的構造改革のもつ問題系――労働分配率の低下がもたらす需要縮小、労働市場の規制緩和がもたらすワーキングプア(または)、メディア社会の民主主義の不安定化など――を踏まえた、新たな連帯主義的代替戦略の構築が求められている。

■ 近年の主なリサーチは、以下を参照。

研究ノート「ドロール、社会プロトコルを語る(Jacques Delors and the Social Protocol)」『豊橋創造大学紀要』第17号 2013年3月
1985-91年に欧州(旧EC)委員会委員長を務め、EUで最もパワフルな指導者となったJ.ドロール氏に社会プロトコルの形成過程を聞く。パリ、サンラザール駅に程近いシンクタンクNôtre Europeでのインタビュー(2012年9月)をまとめたもの。詳細は、「講義ノート&ハンドアウト」または紀要PDFファイルを参照。

「EUのフレクシキュリティ政策―社会的コンセンサスを求めて(Flexicurity policy of the European Union: Towards a social consensus?)」 社会政策学会編 『社会政策』 第3巻 第2号 2011年10月
“フレキシキュリティー”政策は、企業が求める労働供給の柔軟性と労働者が求める雇用の安定性の両立を試みる労働市場政策を指す。2005年には、この政策を加盟国(オランダやデンマーク)の政策領域から離陸させ、EUの雇用・リスボン戦略に組み込む努力が始まり、2007年12月に“共通原則”が採択された。この論考では、@合意形成がなぜこれほどの短期間で生じえたのか、また、A共通原則採択過程で、その内実がどう変化したのかを考察した。

研究ノート「リスボン戦略評価文書(Lisbon Strategy evaluation document)」『豊橋創造大学紀要』第15号 2011年3月
EUの2000-2010年の社会経済プログラムであるリスボン戦略に関しては、幾多の論文や評論が書かれてきたが、ここでは政策立案・施行機関である欧州委員会による戦略評価を翻訳した(EUROPA著作権規定に基づく)。訳者解題を含む。

「EUの社会経済政策とリスボン戦略(Socio-economic policy of the European Union and the Lisbon Strategy)」 高屋定美編 『EU経済』 ミネルヴァ書房 2010年
テキストの第10章を担当、以下の点を論ずる。@EU社会経済モデルと欧州ソーシャル・ダイアログ(社会対話):EU社会経済モデルの定義、およびEU雇用・社会政策と欧州ソーシャル・ダイアログ(社会対話)の役割、A西欧コーポラティズムと欧州ソーシャル・ダイアログ:西欧コーポラティズムと社会対話を中心とするEU制度の関連の叙述と批判、BEU雇用・社会政策と欧州ソーシャル・ダイアログ:マーストリヒト条約付属社会政策協定以降のEU社会政策協議、および欧州雇用戦略とリスボン戦略における社会対話の役割、CEU社会経済モデル、市場経済と民主主義:コーポラティズム型参加制度の民主的正統性の問題。

'The European Social Dialogue - Where Does It Stand Now? A Comparative Analysis of National and Supranational Corporatism', Asia-Pacific Journal of EU Studies, Vol.4, No.1. (2006)
同タイトルで行ったEUSA-AP報告に加筆したもの。西・北欧諸国の(ネオ)コーポラティズムは、EUソーシャル・ダイアログに関する議論の前提であるにもかかわらず、明示的な対比は十分になされていない。報告は、EUシステムを、その制度、機能、歴史的変化に関して多様な各国コーポラティズムのスペクトラに位置づけ、比較検討することを目的とした。

「欧州社会モデルとソーシャル・ダイアログ―ユーロ・コーポラティズムの形成か?」 『日本EU学会年報』 第24号 2004年
近年のマクロレベルのEUソーシャル・ダイアログの展開を、アクター、コンサーテーション、EC条約第138条による協議、(2者間)ソーシャル・ダイアログの各項目に関して概観した。また、労働市場管理の機能に焦点をあてつつ、この制度がもつ課題を指摘した。

'Managing European Works Councils from outside Europe', Ian Fitzgerald and John Stirling ed., European Works Councils: Pessimism of the Intellect, Optimism of the Will? London: Routledge. (2004)
EUのコーポラティズム型制度のひとつである欧州ワークスカウンシルに対する多国籍企業経営者の評価に関する実証研究を総括したもの。2001年3月論文、「欧州ワークスカウンシルと多国籍企業-情報・協議制度、コーポレート・ガバナンスと市場経済」に制度の設置・運営に関する調査結果を加筆、また、上記1998-9年リサーチと類似フレームを用いて行われた、EU域内多国籍企業を対象とする制度評価調査(ウォーリック大学ビジネス・スクール、2000年)の結果を比較検討した(第9章担当)。

『EU社会政策と市場経済−域内企業における情報・協議制度の形成』創土社 2002年
EU諸国の労使関係と情報・協議制度に関するリサーチの総括。第1章では、欧州統合とEU社会政策の歴史をまとめ、本書の主題である域内企業を対象とした情報・協議制度を概観した。第2章では、EU制度の前提となった西欧各国の労使関係と情報・協議制度を概略、第3章から第5章では、EU制度の形成プロセスが、その社会経済的背景に留意しつつ叙述されている。3章は1970-89年、4-5章は1990-2000年を対象とし、3章と4章の前半で背景を扱い、各章後半では、欧州ワークスカウンシル指令、欧州会社法および国内情報・協議制度案などの制定過程を吟味した。第6章では、多国籍ワークスカウンシルに関する2001年3月論文を一部修正の上、再録している。ダヴィニオン卿とのインタビュー、英文目次などを含む。

'Society for the Study of Social Policy - Rehabilitating the Welfare State', Information Bulletin of the Union of National Economic Associations in Japan, No.22. (2002)
社会政策学会における研究動向(1997-2001年)を、@戦後日本の人口動態と経済変化、A福祉国家の再構築、B介護保険制度と高齢者労働市場、機会均等などの社会保障領域を中心にまとめたサーベイ論文。

「欧州ワークスカウンシルと多国籍企業−情報・協議制度、コーポレートガバナンスと市場経済」 社会政策学会編 『自己選択と共同性(社会政策学会誌5号)』 御茶の水書房 2001年
EU情報・協議制度に対する多国籍企業経営者の評価に関する実証研究(総括)。 平成10(1998)年および11(1999)年度冬に行った調査をまとめ、異なるサンプル間の比較を行った。カウンシル制度が、情報・協議と双方向コミュニケーション、従業員参加、コーポレートカルチャー形成の手段として認識されていること、また経営者の文化的オリエンテーションが、カウンシルの機能に影響を与えうることが示されている。



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